凹レンズログ

くりかえす生活の雑感。まとまらぬままに。

スタジオジブリ鈴木敏夫の「仕事道楽」がめちゃくちゃ面白い

ドワンゴの川上量生の発言が頭の片隅に残っていて、僕は一冊の本を手に取った。

『結局,その「幸せそうな人」って見つけられなかったんですか?』 「いや,それがですね。実は少し前に見つけたんだよね。」 『お,誰ですか?』 「スタジオジブリの鈴木敏夫さん。」 4Gamer.net ― 会社経営はクソゲー過ぎる!――ユビキタスエンターテインメントの清水 亮氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第9回 4Gamer.net ― 会社経営はクソゲー過ぎる!――ユビキタスエンターテインメントの清水 亮氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第9回

ジブリ鈴木敏夫の「仕事道楽」。スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫。高畑勲や宮崎駿とのつながりや、映画とのかかわりがざっくばらんにまとめられている。これは、ライフハックや仕事術の本ではない。けれど、何より面白かった。鈴木敏夫氏の放つ超絶な「ふつうの感覚」。オススメの一冊になりました。

仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)

「ありのままでいる」という強さ

ぼくはもう、前書きから、その語り口にやられてしまいました。

やってきたことを覚えていようと思わない。というより、忘れてしまったほうがいいと思っていて、ときには忘れる努力さえする。「まっさらな状態に自分をおくと次がうまくいく」というのが、自分のなかで公式としてあります。・・・終わったものは終わったものであり、いま動いているこの瞬間が大事である、ということなのです。
あらためて思うんですが、ぼくはいつも、どこか野次馬なんです。当事者のなのに、傍観者の立場に自分を置くというのかな。ふつう野次馬というと、悪い意味ですよね。でもぼくは評価していい言葉だと思う。だいたい野次馬というのは、好奇心旺盛で、しかもけっこう性格に物事を捉えるじゃないですか。 ・・・ しばしば「プレッシャーを感じませんか?」と訊かれますが、それはほとんどありません。ジブリという会社をどうするかというときも、どこか他人事感がある。だから、深刻になることが少なくて、冷静にみていたりする。これは案外、大事な資質かと思いますね。こういう性格に生んでくれた両親に感謝してます。 逆説的に聞こえるかもしれないけど、だからこそ、直面する問題についてシミュレーションは徹底的にやり、考えられることはすべて詰めきる、という姿勢でこられたと思う。課題に向かいあうとき、不安や気負いはじゃまになったりしますから。

とてもやさしい言葉がつづられていますが、僕はそれになんとも表現しがたい「強さ」を感じます。パワーがあるとか、ガチガチの厳しさといった類のものではなくて、ふつうは力んでしまう状況、真剣で切りかかってくる相手に囲まれても、いつもどおり力を抜いて刀を持って、小鳥のさえずりすら聞いてしまうようなそんな感じです。

策で勝負しようとしないところ、もちろん多くのやり手の技を近くで見て、テクニックは数多く持っているし使っているけど、それを頼りにしない。今起ころうとしている未知のケミストリーを信頼しきって飛び込んでいくというところだと思う。

ぼくはよく相槌の打ち方の大切さを言いますが、それはこのときの経験が関係していると思います。教養の共有の程度は相槌の打ち方にあらわれますから。 「へえ、なるほど」をくりかえす人っているでしょう。それではダメだと思う。相手のことを勉強していれば、違う言い方になるはずだ。それから、わかりもしないのに、わかったように相槌を打つ人。これはぼくは弱さだと思います。知らなければちゃんと聞けばいいんです。

ぼくは、どちらかといえば自分の中の汚らしい虚栄心や権威主義に苦しめられるほうなので、自然に、それでいて真摯な自分であり続けられるというのは、本当に尊敬します。

好きな人といられるということ

この本の面白みのひとつが、高畑・宮崎・鈴木という3人のオッサンの人間味あふれる結びつきです。それらが、猫バスを走らせ、サツキに泣くことを許し、キキの大きなリボンを生み出し、ナウシカに空を飛ばしてきた。

ぼくにとって、何が楽しいといって人と付き合うことほど楽しいことはない。好きな人ととことん付き合う、好きな人に囲まれて仕事をする、これは最高じゃないですか。精神衛生上もいいし。宮さんとか高畑さんとか徳間社長とか、こういう人たちに出会っちゃって、いろいろおもしろがっているうちにここまで来ちゃいましたけど、ほかにもたくさん、好きな人がいる。
もっというと、「何ものかになりたい」と思ったこともないし、何かで名をなしたいと願ったこともない。そのせいかなとも思いますが、ぼくにはライバルだと思う人はいません。人をそんなふうに捉えないんです。今言ったように、好きな人と好きなことをやってきて、そして、好きな人だからいっしょにいい仕事ができた、ということですから。
風の谷のナウシカ [DVD]

僕はどちらかといえば、他人が自分へ踏み込んでくることに抵抗感を感じる部類の人間だと思います。けれど、こんなふうに人とつながられることが出来たらな幸せだろうな、と思わせてくれる。自分が自分でいられるように、背中にかるって引きずってきたものを少し降ろしてみようという気にさせてくれる。活字のなかにすら住んでいるその優しさに絆されていくように感じました。

ぼくにとっては、ジブリ作品の成り立ちを感じながら、少し優しく自然になれる時間をくれた本でした。