凹レンズログ

くりかえす生活の雑感。まとまらぬままに。

意外と論理的な「覚悟のすすめ」

 阪神の金本知憲といえば、言わずと知れた球界の「アニキ」である。今回のエントリーは、彼の著書「覚悟のすすめ」について。
 この本を購入した当初、管理人は、猪木のビンタによる闘魂注入効果みたいなものを期待していたのだけれど、金本の語る“覚悟”が予想外に論理的で、非常に良い意味で予想を裏切られた。

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覚悟とは

 辞書に載ってる「覚悟」は、「危険なこと、困難なことを予想して、それを受けとめる心構えをすること」であるらしい。しかし、本書の中で金本が扱っている覚悟は、若干ニュアンスが異なるように思う。主として彼は2種類の覚悟に関して言及している。
1.「目的」を達成するために「必ずこれをする」という覚悟
2.最悪の事態が起こりうると腹をくくる覚悟(辞書に近い)
 彼が覚悟を決めるプロセスの一例として、カープ2年目1軍候補から外されてプロでやっていくことを諦めかけた時をとりあげよう

「まずいなぁ…」「いつクビになっても大丈夫なように、心の準備だけはしておこう」「そうなったら、どこかのテストを受けようかなあ。でも、前に落ちているし、2回も落ちるのは嫌だしなあ…」

あきらめてはいても、「今はダメでも2年後くらいにはなんとか1軍に上がれるようになるやろう」という気持ちは心のどこかにあったような気がする。

その時の自分には実力が足りないのを私は自覚していた。だから、監督やコーチから相手にされないし、「あっちでやってろ」といわれるのもしかたがない。それはあきらめていた。

しかし同時に、地道に、少しずつ力をつけていき、2年後、3年後にある程度になっていれば、注目してくれるはずだ―――そう考えた。
「それならば―――」私は覚悟を決めた。「今できることを着実にやっておこう」

それでは今すべきことは何か―――。「シーズンオフにも練習しよう」みんなが同じように伸びていくとすれば、いくらやっても彼らとの差は埋まらない。それならば、みんなが休んでいるオフに懸命に練習して、少しでも近づいてやろうと考えた。(一部略)

 特に、1.について金本は他の例の中でも「目的」「なんのために?」という部分をかなり明確に考えている。管理人なんかがよくやるダメな例として、目的を明確にせずに日常で「とにかく1日2時間勉強しよう」という目標をたてて、しんどくなったり忙しかったりで「なんでこんなことやってたんだっけ?」「まぁ、今日くらいはいいか」と心が折れてしまうということが良くある。しかし、「何のために覚悟を決めるのか?」を明確にしておけば、それが覚悟が揺らぎそうになった時にアンカーの役割を果たしているのだ。
 金本の言う覚悟ががむしゃらな根性論ではないのだということが、 最悪の事態の想定 → 目標の明確化 → 具体的見通し → 覚悟 → プランニング というプロセスをとっていることからもよく分かる。



弱さを受け入れ、最悪の事態を想定して、腹をくくる

 バリバリの強気人間だと思っていた金本だが、意外とコンプレックスと小心さも持ち合わせていることを知った。

妥協しかねない。それが怖い。人間の気持ちは弱いものなのだ

「プロでやっていくのは無理だ」素直にそう思った。なかばあきらめてしまっていたといってもい。

 実は、このような傾向が論理的な覚悟を持つために有効に働いている。特に彼は「最悪の事態を想定する」という作業に長けている。この「最悪の事態」の想定を実行できるかできないか、という点は一般企業のプロジェクトや社会生活の中で困難が生じた時に耐えうるかどうかの大きな分かれ目になる。

なにかを成し遂げようと考えるとき、大切なのは「どうにもならない状況に陥ったときどうするか」「なにをできるか」なのである。だから私は、個人としてもチームとしてもつねに最悪の状況を意識的に想定している。そして、何が起ころうとも、どんな事態に直面しようとも、絶対に気持ちがブレないよう、前もって準備をし、覚悟を決めておくようにしている。

 課題や壁に遭遇したときの彼の思考プロセスは以下のように進む
「最悪の状況はなにか?」と考える → 最悪の状況を回避するためにすべきことを考案する → 覚悟を決めて実行する
 実際には、最悪な事態を考えることって結構つらい。管理人も最悪の状況におかれた自分を想像するだけでも、胃が痛くなってしまう。「まぁ、大丈夫だろう」と深く考えることをやめてしまうことが度々ある。だけれど、これではマズイのだ。なぜなら、本当に最悪なことは、考えもしなかったトラブルに、何の準備もなく出くわしてしまうことなのだから。

覚悟を決めることによるメリット

 そもそも、覚悟をきめることがなぜ良いことなのか?ということに触れておこう。目標としているものに着実に近づくということも大事ではあるが、それ以上に、普通に過ごしていては経験できない行動を、覚悟が自分にとらせてくれるという点がミソであるように思う。ヒトは覚悟を決めることによって、今までやらなかった行い、辛抱、継続をすることが可能になる。
 例えば、金本は試合中にひねった右手がパンパンに腫れて、箸も持てず歯も磨けない状態でバッティング練習を行っている。金本自身も無理だろうとは思いながらの練習ではあったが、怪我をかばって力を入れずにバットを振ってみると、何故かバットを返す悪い癖が修正され、思いのほか良い打球が飛んでしまった。

「へえ、やってみれば案外できるもんやな」自分では無理だと思っていることでも、覚悟を決めてやってみれば案外と出来るものだ。(中略)自己限定は罪であることに、その時あらめて私は気がついた。

また、怪我をしてもそれを隠して試合にでる彼は、そのハンディキャップの中での創意工夫し、新たな技術を自分のものにしてきた。

覚悟を決めた瞬間、今までできなかったことができるようになる。

 覚悟をきめて行動して新たな発見をすることは、つまり、今まで「要は勇気がないんでしょ」的に出来るはずなのにやらなかったことを実行する機会が与えられることになるのだ。「まぁ、余力を残してもこのくらいはできる」と余裕をかますことではなく、覚悟を決めて突っ込んではじめて、今まで知らなかった本当は能力のある自分と出会うことができるのだろう。


蛇足 金本の論理的思考の数々

 覚悟のプロセス以外で、本書を読んで驚かされたのは、金本の思考力の高さだ。それが随所に見られるので、本題からはややそれるもののチョット紹介。

想像力

レギュラー選手は簡単に休むべきではない、選手にとってはその試合は144分の1でも、(中略)年に1試合しか球場に足を運べない人もたくさんいるはずである。

目標設定のうまさ
 イチローが打率ではなくヒット数を自己評価の基準にしていることにもつながるが、目標のプランニングが非常にうまい。阪神移籍時に個人成績の数字ではなく、印象に残るはたらきをすることを金本は目標にしている。良い目標と悪い目標の違いは、自分のパフォーマンスを向上させるか否かという点だ。

柔軟な考え方

捨てるという行為は選択肢をひとつ減らすことができたということだから、それはそれで進歩である。(中略)自分で検証してはじめて、常識は意味を持つ。それがほんとうに常識を理解したことになるからだ。


 金本の意外な一面に触れた一冊でした。